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「だけどニコはそれがまちがいだって気づいたから鐘を取り戻しにいったのさ。どこにあるのかわからなくて、すぐには帰れないけど、カーシャはここで待っていればいいんだぞ」

それを聞いて、エゴルはこっそり彼の袖(そで)を引っ張った。

「おい、大丈夫か、そんなこと言って」

「本当のことを聞かせたって、あの子は混乱するだけじゃないか。それよりも、おとなしくここにいられるように安心させてやるのが彼のためだ」

ひそひそと耳打ちをするサッコに、

「はあん、あんたはいい頭してるぜ、まったく。嘘も方便だな」エゴルは苦笑いを浮かべながら顎をさすった。

夕暮れ時、食料品店の前を素通りするカーシャを見つけて店の主人が声をかけた。

「カーシャ、今日はどこへいくんだ」

「エゴルんとこ。おばちゃんのパイを食べにいく」

「ほう、そうか。よかったらうちへも寄るんだな。今夜はうちもちょっとご馳走だぞ」店主の目が眼鏡の奥で自慢げに微笑んだ。