家族の中の孤立

妹が父にこっそり兄との同居への不満を訴えたらしく、ある日父から提案があった。

「実は“自然島”に、古い家を1軒安く買ってある。いつか何かに使うかと思っていたが、使い道もないからぽろもきに譲ることにした。あそこで1人になって計算に集中したら効果があるだろう」

「お父様の優しさだよ。感謝しなさい」と母は言った。

「……」

ぽろもきは黙って頷いた。

父に見送られて、ぽろもきは実家を後にしたが、自宅マンションの出口で思わず呟いた。

「どうして僕は、この家族の一員として生まれてきたのだろう。何かの間違いだったに違いない」

この“現在の地球によく似ているけれど、ちょっと違うところもある世界”では、飛行機は発明されていなかった。プロペラを使う特別なヘリコプターはあったが、誰でも乗れる乗り物ではなかった。島から島、国から国へは船で移動するしかなかった。

当分生活できるお金と船の往復にかかる代金は父からもらっていた。ぽろもきは生まれて初めて大都会島を離れて、海を見ながら自然島に向かっていた。置かれている立場は苦しいので先行きは暗かったが、大都会島を離れて海を進んでいることには解放感もあった。

やがて船は“自然島”に到着した。大都会島の港はコンクリートしかなかったが、そこは石畳の道が続く港だった。

港の石畳を歩き始めると、柔らかい潮風がぽろもきの顔を撫でるように吹いていた。自然島の港には店が並んでいた。

大都会島では見たことがない古い建物の店が多かった。潮風に当たりながらこの港を歩いていると、妙に心が落ち着く。

それは自分が大都会島ではリラックスできないということの裏返しでもあり、悲しいことでもあった。