人生解説集

トワコは二階の物置部屋で母親の遺品整理をしている。

亡くなって三ヶ月が経ち、ようやくそういう気持ちになれたのだ。

享年八九歳、世間的には大往生といわれるであろう年齢だ。周りも親を亡くした人の方が多く、何も特別なことではないことぐらいトワコもわかっている。

しかし、身近な人の死は大きな影響を与えるものである。簡単に日常に戻れるほど人間は単純ではない。

重い腰を上げ遺品整理を始めたものの、母親が寝室として使っていた一階の和室はまだ片付ける気持ちにはなれず、物置になっている二階の部屋から手をつけ始めた。

本腰を入れての片付けは、父親が亡くなった後にした遺品整理以来である。当時は母親も健在で、一緒にせっせと動いたことが脳裏に蘇る。

父親を亡くした喪失感はあったが、懐かしい品々を前に思い出話にも花が咲き、そこには温かい時間が流れていた。

だが、今回は一人である。辺りはシーンと静まり返り、孤独な感覚がより一層研ぎ澄まされるようだった。

この部屋にある物は、ほとんどが母親の物だ。捨てることを嫌う人で、ありとあらゆる物が取ってある。周りからしたら捨てるに値する物も、本人にとってはいつか使えるかもしれない物だったのだ。

トワコはその一つ一つを確認し、処分するかどうかを仕分けていくことにした。時間のかかる作業ではあるが、残された者の使命のごとく手を抜いてはいけないと、心の底から沸き上がる思いに突き動かされていた。