人生解説集

再び最初から一ページ一ページ丁寧にめくっていく。

両親は長年子どもを望んでいたものの、なかなか授かることができず、ようやく授かった子がトワコだった。一人っ子ということもあり、箱入り娘として大事に大事に育てられた。

あまり多くを語らない父親とよくしゃべる母親に見守られ、すくすくと成長し高校卒業後は地元の企業へと就職した。

結婚願望が強く、小さな頃からの夢はもっぱらお嫁さんであり、大きくなってもその夢は変わらなかった。だから就職したとはいえ、結婚するまでのことだと思い、世にいう腰かけのつもりで働き始めた。

若い時分には、おせっかいおばさまなる人がたくさんいて、見合いの話には事欠かなかった。しかし、恋愛結婚に憧れていたトワコは縁談の話は全て断り、恋への夢を膨らませていた。とはいえ、恋愛とは相手がいて成り立つものであり、望んだところで現実は決して簡単ではなかった。

そんな中、ある転機が訪れた。仕事でおつかいを頼まれ、職場近くの駅まで出た時のことだった。高校時代に密かに想いを寄せていたクラスメイトがいたのだ。

彼も仕事中のようでせかせかと早歩きをしていた。スーツを着て、随分と大人っぽくなった姿にトワコの胸は高鳴った。が、声をかける暇もなく彼は駅のホームへと消えていってしまった。

いや、あの時大きな声を出す勇気があれば呼び止めることができたかもしれない。手をこまねいている間にチャンスの神様は通り過ぎてしまったのだ。

彼とはそれっきりになった。一度会えたのだから、また会えるのではないかと淡い期待を抱いていたが、その日が訪れることはなかった。しばらくはあの時に勇気を出せなかった自分を悔やんでいたことが蘇る。

トワコは遠い過去の出来事を懐かしく思い出しながら、この部分の解説を読んでみる。すると、もしも声をかけていたとしても状況は変わらなかったことが書かれていた。

その時の彼は、取引先とのトラブルで慌てて移動をしていたのだ。大きな声で呼び止めたところで気づく余裕はなかった。だが一つだけ違うとすれば、トワコの気持ちだと記されている。やるだけのことをやって駄目だった場合には後悔の念は残りにくい。声をかけていたならば、後悔せずに終わらせられたということだ。