不動産相談所
他に予定があるわけではない。だが今日はプラッと来ただけで身なりもきちんとしておらず、とても万全とはいえない。少しでも印象がいい状態でその日を迎えたいものである。見学は明日にしてもらい、俺はその場を後にした。
相談所を出た足で馴染みの美容院へ寄り、髪の毛をサッパリさせてから帰宅する。そして自宅に着いたらすぐにクローゼットへ向かい、明日の洋服をどれにするのか考えを巡らせる。相手の好みを確認しておけばよかったなと少々後悔しつつも、ひとまず清潔感のある無難なコーディネートに決定した。
翌日、約束の時間に待ち合わせ場所である物件の入り口付近へと向かうと、すでに到着していた相談員は俺に気づくなり会釈をした。
「おはようございます。昨日と印象が違ったので、一瞬わかりませんでした。清潔感もあり、とても好印象でございます。それでは参りましょう」
俺はこの手の褒め言葉が苦手だ。適当に返事をし、物件の中へと入っていく。築年数が浅い綺麗なエントランスを抜けエレベーターに乗り込み、五階のボタンが押された。階が上がるのと一緒に緊張感も増すのがわかる。
エレベーターから降りると、部屋は目の前だった。相談員はそそくさとカバンの中から鍵を取り出し、インターホンを押した後に解錠する。
さぁ、ここからが勝負のスタートである。
「失礼します!」
俺はハキハキと言い、靴を脱ぎ揃え、お辞儀をしてから入室する。緊張で若干声が上ずってしまったが、まぁ仕方がない。
相談員は淡々と、キッチン、風呂、トイレ、部屋を順番に説明して回った。清潔感のある白を基調にした室内と、開放感のある高めの天井に加え、日当たりも抜群ときた。思っていた通り、いや想像していたよりもはるかによかった。