ボクの仕事

仕事をすることで知った社会の理不尽さは数知れず……。自分が悪くなくても謝らなきゃいけないこともあるし、自分の好き嫌いは関係なく人付き合いも必要だ。

いちいち文句を言っていたらきりがなく、いろんなことを飲み込んで何でもない顔して過ごしているうちに、だんだん大人になってきた。親への感謝の念を抱くようになったのも、働き始めてからだった。

しかし、決して仕事が苦痛というわけでもない。なぜなら、やりがいがあるからだ。とはいえ、やりがいを感じられる瞬間なんてそう多くはない。だが、その時々感じられるやりがいには、数多い大変さを上回る心地よさがあるのだ。

だから、何やかんやで愚痴を言いながらも仕事を続けている。皆がそうだとは思わないが、少なくとも自分はそうである。

ボクの仕事は、いわゆる肉体労働と呼ばれるものだ。体が資本の仕事ゆえ、いつまで続けられるだろうかと将来への不安は常につきまとう。しかし、今はとにかく目の前の一つ一つの仕事を一生懸命こなすことだけに集中している。

仕事形態は登録している会社から依頼が来るというもので、いわゆる個人事業主だ。仕事の依頼件数は収入に直結する。シビアな世界である。そのため、依頼とあらば何を差し置いても現場へと駆けつけるのがボクの日常となっている。

作業には、掘ったり削ったりの工具が必要で、現場までの移動も決して楽ではない。なのにせっかく現場近くまで来ても、急にキャンセルなんてこともある。

今回もそうであった。移動中に登録会社から電話があり、キャンセルの旨が伝えられ、ボクは堪らず言った。

「そんな……もう近くまで来ていますよ。一体どんな理由なのでしょう?」

すると、電話口では申し訳なさそうにこう返してきた。

「実は、先方が歯科医院で歯のクリーニングをしたため、私たちの入る余地はなくなってしまいました……」

「またですか? 先日も同じ理由でキャンセルになったばかりですよ」

「そうですよね……ですが、こればかりはどうすることもできないのです。最近は予防歯科が広まり、その影響とでもいうのでしょうか、あともう少しのところでキャンセルになってしまうことが増えているのです」

そう、ボクは虫歯菌。歯が綺麗になってしまえば、出る幕はないのである。

「そうですか……わかりました。諦めて帰宅します」

「すみませんね、次はなるべく割のよい仕事を振りますね」

「はい、よろしくお願いします」

仕事とは、こんなこともあるものだ。