人生解説集
自立した生活がスタートすると、遅ればせながら自由を謳歌し始めた。それまで母親に任せっきりにしていた家事を全てやる大変さはあったが、何時にご飯を食べようが、どんなテレビを観ようが、誰からも干渉されることはないのだ。一人分の家事の負担よりも、はるかに上回る快適さがあった。
自由気ままな独身ライフを楽しみ始め、意外にも寂しいと思うことはほとんどなく、あんなに夢見ていた結婚への憧れもいつしか消え去っていた。
それが五十代に入った頃からだろうか。気持ちに変化が表れ始めた。
私の人生、このままでいいのだろうか……。自分はこのまま一人孤独に歳を取っていくのだろうか……。
トワコはそんなことを考えるようになっていた。それは恐怖心にも似た感情であった。腰かけのつもりで就職したはずなのに、いつの間にか影でお局(つぼね)と呼ばれるようになっていた。
体力も顕著に落ちる一方で、小さな字も老眼鏡なしでは読めなくなってしまった。時の流れは、容赦なく老化への道案内をしていると自覚することが増えていた。
どうせ老いるのなら一人ではなく、誰かと寄り添い合っていきたいと思ったトワコは、一念発起し婚活を始めることにした。今さら何で……と周りに言われることを懸念し、極秘の婚活となった。
若い頃には見合いは恋愛ではないと決めつけて敬遠していたが、歳を取って考え方が変わり、むしろ相手の素性が事前にわかるメリットさえ感じるようになっていた。考え方とは歳と共に変わっていくものなのだ。
静かなる婚活は何年にもわたり続いた。いろんな人に会い、見合いを進めたが、結局は結婚に至ることはなかった。独り身が長く何でも自由に過ごしてきた分、相手に合わせることには想像以上の労力が必要だった。
自分の感覚と違う部分を見つけると、どうしても許せなかった。つい相手を批判的に見てしまい、うまくいかなかったのだ。
今さら他人と一緒に過ごすことは難しいのではないか……と考えていた矢先、トワコの父親が亡くなった。長い闘病生活の末だった。よいタイミングだと思い、婚活をきっぱりやめて実家へ戻ることにした。