過ぎてしまった後に、こうしていたらと勝手に都合よく考えたシナリオで悔やんだ過去に苦笑いをする。そして別の思い出も蘇る。二十代の頃にお付き合いをした恋人との別れである。

その人は取引先の担当者で、トワコよりも三つ年上の人だった。最初はただの顔見知りだったが、彼が忘れていったボールペンを届けに追いかけたことがきっかけで話すようになり、いつしかお付き合いをするようになっていた。

穏やかな彼との日々は平和そのものだった。なのに、何だか物足りなく感じたのだ。やがて付き合いはうまくいかなくなり終止符を打つことになるのだが、以降はなかなかよい縁に恵まれず、随分後になってから自分の選択を後悔した。

もしもあのままお付き合いを続けていたらどうなっていたのか、トワコの心中には知りたいような知りたくないような複雑な感情が沸き上がる。しかし気になる方が勝り、ドキドキしながらもその頃のページへと進めていく。

解説によると、あのままお付き合いをしていたら、トワコは彼と結婚をしていたと書かれている。結婚生活自体は平凡そのもので小さな不満は持ちつつだが、それなりに幸せな日々を送り、子どもも男の子と女の子に恵まれることになっていた。

そして、衝撃の一言も目に入る。彼との交際を終了したトワコは、生涯独身として生活することになる……と。

その通りであった。トワコは独身のまま現在を迎えているのだ。

 

二十代の頃、こんな未来は微塵も想像していなかった。自分は絶対に幸せな結婚をするんだと、何の疑いもなく思っていた。若気の至りとでもいうのか、理想ばかりを追い求めていたことに気づくことはできなかった。

それが何となくわかり始めてきたのは、三十代半ばにさしかかった頃だった。それまでは母親からよい人はいないのかと時折聞かれていたのに、何かを悟ったかのごとく母親はそのことに一切触れなくなり、腫れ物扱いされているような居心地の悪さを感じるようになっていた。

周りの友達もほとんどが家庭を持ち、トワコだけが行き遅れてしまった感じは否めず、もしかしたらこのままずっと結婚できないのかもしれないと思い始めた。決して望んではいない未来も視野に入り、何かから逃げるように実家を離れて一人暮らしをすることにした。

【前回の記事を読む】母の遺品整理中に見つけた一冊の本。そこには誰にも話したことがない思い出が綴られていて......

次回更新は9月6日(金)、18時の予定です。

 

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