僕と雪女

1 仲馬倶楽部(なかまくらぶ)

人種と言語の関係性は文化にも多大な影響を与えているにちがいない。

なんかとんでもなく深いものがありそうな気がした。そこで大学では英米語を専攻してみようと思ったわけだ。

英米文学科には変わり者のアメリカ人客員教授がひとりいて、最初の講義から日本語は一切使わず英語だけだったが、僕たちのレベルをよく心得ていて、なんとかついていける内容で授業を進めてくれる。

問題なのは妙な課題をひっきりなしに出してくることだ。

今回の課題は小泉八雲(こいずみやくも)の『雪女』の考察だ。八雲の「怪談」のなかでは、唯一出典となる民話がないと言われる。

あえて探せば、日本の民話に登場する真っ白い大きな顔のお化け、雪の日にただ現れて旅人を脅し、消えるだけで特筆すべき技はない。

僕たちがなんとなく想像しているほっそりして儚げな黒髪の美女のイメージは八雲が生み出した雪女らしい。

『雪女』については今でもいろいろな解釈があるという。

「怪談」の序章に、ある地方の農民からの伝承とあるが、八雲の「怪談」の和訳が出たのは大正末期で、伝承が文字の民話集化されたのは昭和になってからだから、時期的に後になるそうだ。

『雪女』にはアンデルセンの「雪の女王」といった西欧文学のモチーフの影響が多々みられるところから、日本の伝承に強い印象を受けた八雲が独自に変容させたものだ、というのが教授の持論だ。