【前回の記事を読む】「実は、どうも雪女の話によく似た出来事があったらしいんだ、お前の父方の家系にも」――小泉八雲の雪女の話をしていると…

僕と雪女

2 キャンドルナイト

「何、なんかヤッベー感じなんだけど」

「実はな、お前のお父さんには双子の兄がいたんだよ。徹也くんの母親の直子(なおこ)さんはもともと華奢(きゃしゃ)な質だったが、お産が重くて双子を産んだすぐ後で亡くなった。双子のうち兄のほうも駄目だった……」

「そんなことがあったの? 嘘だろう?」

「悲しいかな、本当さ。お前のお祖母ちゃん、直子さんは本当に綺麗だったそうだが、身体が弱くてな。徹也くんのほうは二人分の元気を持ち合わせて、健康ないい男に育ってくれた。美和とは大学時代の山岳部の仲間で、周りが妬けるほど惚れ合っていたなあ。それが、あんなことになって」

「雪山の遭難だったんだって? えっ……雪山、まさか」

「ああ、リーダーをやってたくらいだから登山経験も豊富、慎重な男だったよ。登山計画も問題なかったのに、冬の登山は危険がつきものだ。突然の雪崩(なだれ)でしんがりにいた徹也くんが巻き込まれた。それにな、徹也くんの叔父、誠二さんは幼い時に風邪をこじらせて亡くなった。大雪で道路が通れなくて救急車が間に合わなかったそうだよ」

「叔父さんも? 大雪のせいで……」

「まだあるぞ、お前の曽祖父の兄さんは出征中に雪山の行軍(こうぐん)で凍死した。徹也くんは美男子の家系でな、亡くなった三人は揃いも揃って写真でも分かるほどの際立った男前だった。まあ、幸か不幸か私の家系はそちらのDNAはないらしい」

「ちょっと待ってよ、それじゃ、みんな雪のせいで……」

「原因は数代前の宗助(そうすけ)さんにあるというんだ。彼を吹雪の山で助けた若い娘の怨念(おんねん)じゃないかとね。二人は惚れ合って子もできたが、宗助さんは親の借金を肩代わりしてもらうために庄屋の婿に入った。娘は泣く泣く子供を連れて姿を消した」

「ちょっと待ってよ。それ、ひどいじゃない。巳之吉とは随分スタンスが違うよね」

「それからだ。その家系に生まれた見目好い男子が、ひとり、またひとりと亡くなった。みんな大雪の日にな。聖也――ところで君は、今や徹也くんの家系ではたったひとり生存する青年だぞ。イケメンかどうかは分からんが。大雪と美女には気をつけろよ」

祖父はそう言ってウインクした。

「こわっ!」

僕はすぐさま部屋中の電気を点けた。

「やめてくれよ、縁起でもない。祖父ちゃん酔っぱらってるだろ。からかわないでよ」

「ははは、そうだな、久しぶりに吞み過ぎた。どれ、ひと眠りするか」

炬燵でごろんと横になり眠り込んで鼾を掻き始めた祖父の傍で、僕は茂作の隣で震えていた巳之吉のようにまんじりともできなかった。