【前回の記事を読む】実は僕の親族の男性が次々に“雪”にまつわる死を迎えていた。それは“雪女”の呪いによるらしい。僕も例外ではないのでは……?
僕と雪女
2 キャンドルナイト
「よかったら駅まで送らせてください。ご迷惑をかけたお詫びに」
「でも……大丈夫ですか? 歩けます?」
財布がコートのポケットにあることを確かめてから、僕は胸を張って言った。
「なんのこれしき、どうってことありません。駅前にカフェがオープンしたでしょ? 熱いコーヒーを奢らせて下さい」
女の子はにっこり笑って頷いた。明るい栗色のカーリーヘアが躍った。僕の心も踊り、後頭部のたん瘤(こぶ)が気分同様膨らんだ。僕は心の準備を整え勇気を出して聞いてみた。
「僕、聖也といいます。クリスマスにでき過ぎみたいだけど。あなたは?」
「セイヤさん……?」
彼女は何かを思い出そうとするように一瞬遠い目をした。
「私は――ゆ」
「え? あ、待って。やっぱり言わないで。お楽しみということでいいですか?」
僕は大胆にも思い切って彼女と手を繋いだ。女の子と手を繋ぐなんて、我ながら信じられない行動だ。
「あの、ほら、滑ると危ないから……」
雪の朝だというのに手袋もしない彼女の指は氷のように冷たかった。彼女は繋いだ手を振り払う様子もなく軽い笑い声をあげた。
「滑って転んだのはあなたのほうよ!」
鳥がさえずるように美しい声で楽し気に笑う……? 彼女の吐く息が白く凍った。
「大雪と美女には気をつけろよ」
祖父の言葉と意味深なウインクが脳裏に蘇った。ガールフレンドのできない僕を慰めるつもりか、けしかけるつもりか、いずれにしても酔っぱらった祖父一流のブラックジョークはキッパリ無視することにし、僕は決意を固めた。
もしきみが雪女だとしたら――もう絶対にどこへも行かせないよ。今度こそしっかり僕の想いを伝えるんだ。間違いない、きみはずっと僕が探していたひとだ。やっと、やっと逢えたね。
僕たちは肩を並べて駅に、いや、未来に向かって歩き出した。一面の銀世界と抜けるような青い空が眩しかった。真理亜、心配するな。お兄ちゃんは優柔不断な男じゃない。女の子にこんな気持ちを感じたのはあの夏以来なんだから。