【前回の記事を読む】小泉八雲が創り出した「雪女」のイメージは妖怪は妖怪でも美しい黒髪の女の人って感じで…

僕と雪女

2 キャンドルナイト

「女はしばらくじっと巳之吉を見つめていたが、やがて微笑みを浮かべて言ったんだ。

『お前はとても若い、それになんて美少年なの。殺してしまうのは可哀そう。生かしておいてあげよう。その代わり、今夜見たことを誰にも話してはいけないよ。たとえおっかさんでも。もし話したら、その時は命を貰うからね』。

巳之吉は気を失った。幸い朝になって戻ってきた船頭に二人は発見されたが、年寄りの茂作は息がなかった」

「巳之吉は?」

「命は助かったが、女のかげりのある大きな瞳と美しい唇、そして自分の頬に触れた指の冷たさが忘れられず、その後しばらく気を病んで床についた。その夜のことは約束通り誰にも決して話さず、あれは夢だったにちがいないと思うようにしてようやく回復した」

焼酎のボトルはいつのまにか半分以下に減っている。

「翌年、身体が回復して木こりの仕事に戻った巳之吉は、山からの帰り道で一人の娘に出会った。鳥がさえずるように美しい声で楽し気に笑う綺麗な娘に彼は一目惚れし、家で少し休んでいってはどうかと誘ってみた。巳之吉の母は息子が連れ帰った娘の気立ての良さを大層気に入り、嫁として迎え入れた。月日が過ぎ、巳之吉と雪は十人もの子供たちを授かったんだと」

「十人って、すごいなあ。少子高齢化の時代じゃあり得ないよ」

「まあな、昔は娯楽もそうはなかったし……おいおい、愛だよ、愛。お互いにすごく愛し合っていたということだ。いい夫婦じゃないか」