一面を銀世界のホワイトクリスマスに変えた雪も翌日はすっかりやんで、朝からピカピカの晴天だった。心配が的中し、首都圏の交通網は分断されて回復に手間取りそうだった。
僕は電車が動き次第帰宅すると妹にLINEし、祖父の家の前の歩道の雪掻きにとりかかった。すると踏ん張った拍子に段差のスロープに足を滑らせ、後ろ向きにひっくり返って思い切り後頭部を打った。目の前に星がはじけ一瞬意識が遠のいたが、幸い分厚いニット帽のお陰で大事にはならなかった。
「大丈夫ですか、大丈夫ですか」
誰かが真上から僕の顔を覗き込んで声をかけたので我に返った。
「え、ええ、大丈夫そうです」
「ああよかった。救急車を呼びましょうか」
「いや、そこまでしなくても。家の前ですから」
雪の眩しさに細めたまぶたの隙間から、心配そうに覗きこんでいる女の子が見えた。
頭を打った衝撃など及びもつかないショックが僕を襲った。見たこともない綺麗な女の子だった。長い睫毛に縁取られた大きな瞳にじっと見つめられると、なぜかたまらなく切なくなり、懐かしい記憶が蘇える気がした。
僕は慌てて立ち上がり、服の雪を払った。礼を言おうと頭を下げると舗道に散らばった数冊のノートが目に入った。うちの大学のエンブレムが付いている。あわてて拾って彼女に手渡した。
「濡れてないですか、すいません。あのう、もしかしてA大学の?」
「ええ、文学部です」
「ぼ、僕もです。英文科の二年生ですけど」
「そうなんですか! 偶然ですね。私は国文の三年です」
「これから学校? 今日は無理でしょう。電車が動いてないし」
「ええ、でも駅まで行ってみます」
家でお茶でも、と言おうとしたが、昨日散々食べ散らかした跡がそのままだし、祖父は酒臭くてとてもじゃないけどご招待は無理だと思いなおした。
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