純日本的な話だとばかり思っていた僕は、言語はリズムばかりか、異なる人種間の文学や伝承にまで影響を与える因子を持っているのかと、目から鱗状態だった。
しかし、それを探るとなると、一体どれだけの文献を読み漁れというのだろう。冬休み返上を示唆する酷な話である。
僕はそれまで朧げな知識しかなかった『雪女』に、俄然興味が湧いてきた。
「ちょうどいい機会だ。祖父ちゃんに意見を聞いてみよう。国語の先生だったんだから、八雲についていろいろ知っているだろうし」
上野駅で乗り換えた常磐線(じょうばんせん)には乗客はまばらで、ゆっくり座ることができた。
雪は本降りになり、郊外の景色は白一色だった。窓外に流れてゆく雪景色を見ながら、僕は胸のどこかに忘れていた空洞がどんどん広がっていくのを感じていた。
英文科には圧倒的に女子が多い。
お洒落(しゃれ)で可愛い女の子に囲まれているのに、なるべく目立ちたくない僕には一向にガールフレンドはできず、妹の言う通り肩身の狭い毎日を送っている。
誤解を招かないように言っておくが、女子に興味がないわけではない。むしろ、ありありだ。
でも、どうしても積極的に関わりたいという気持ちになれないだけだ。
祖父に似て動物好きの僕は、小学校の頃からまとまった学校の休みには必ず我孫子の祖父の家に泊まりに行き、一緒に小さな乗馬倶楽部に通っていた。
妹は動物アレルギーでくしゃみが止まらなくなると言ってついてこなかった。
「仲馬倶楽部」という名称の乗馬倶楽部は、利根川の広い河川敷の堤防のすぐ下にあり、周囲に広がる田んぼの一角を占めるこんもりとした森の中に隠れている。
厩舎(きゅうしゃ)と大小の馬場が二つ、牧草や飼料の倉庫があり、入り口の近くに丸太小屋のような二階建てのクラブハウスがある。
僕が通い始めた頃から一向に変わらない眺めだ。
オーナーの健太(けんた)さんは優しい見かけに似合わず、相当骨太な人だ。