第一部 トム・リプリー論
第一章 コンマン&ジェントルマン
―アメリカン・デモクラシーに背を向けた男トム・リプリー
エピソードⅠ:トム・リプリー誕生秘話
パトリシア・ハイスミスは海外旅行好きで、旅先で気に入った場所にめぐり合うと、そこにしばらく滞在する生活を送っていた。彼女が描くトム・リプリーというキャラクターは、そんな彼女のライフスタイルから生まれた。
ハイスミスの自宅を訪問しインタビューした南川三治郎氏によると、リプリー誕生のきっかけは、彼女が南イタリアのアマルフィ海岸ぞいのリゾート地ポジターノに旅行したときだった。
波打ち際を歩いていた不良っぽい青年が彼女の目に留まり、リプリーのイメージと『太陽がいっぱい』1の構想が閃いたという。