[エピソード1]中学生のとき、腕相撲がやたらと強かった
実が小学生、中学生当時の家業は、飼料の特約店であった。飼料は丈夫な紙袋に入っており、1袋20キログラムの重さがあった。毎週水曜日、工場から配送されてくる1000袋もの荷物を倉庫におろした。家族総出での作業であったが、いつも夜の9時過ぎまでかかったと記憶している。
小学校高学年になると、兄とともに、毎週この作業を手伝うことになった。小学生の頃は、1袋(20キログラム)を担ぐのが精一杯であったが、中学生になるとサッカー部で体を鍛えていることもあり、同時に2袋(40キログラム)、3年生の時には3袋(60 キログラム)担いでもびくともしなくなった。
その結果、腕力が急速に強くなり、中学2年生のときには、クラスに腕相撲で実にかなう同級生はまったくいなくなった。
これを聞きつけた隣クラスのI君が毎日昼休み、実に挑戦しにきた。最初はあまりにも弱くて、簡単に打ち負かしていた。彼はとてもくやしかったようで、それからダンベルで腕を毎日鍛え始めたようだ。
確かに、次第に腕が太くなって、力が強くなったことは腕相撲勝負のなかで感じることができた。しかし、実は、毎週20キログラムの紙袋を数百袋かついでいるのだ。鍛えるためではなく、家業の手伝いのためであったが、鍛え方のレベルが根本的に違った。
しかし、夏に始まったこの腕相撲勝負が半年も続くと、実もさすがに辟易(へきえき)としてきた。
中学校2年の3月頃、わざと彼に負けた。すると、よほど嬉しかったのだろう、彼は小躍りしながら、大粒の涙を流して号泣したのだ。半年間腕を鍛え上げて、強敵に勝ち大きな達成感を得たのかもしれない。
わざと負けた実は大変申しわけないことをしたと思ったが、彼は二度と腕相撲の勝負には来なかった。高校受験勉強も本格化するなかで、実は、ようやく落ち着いて、昼休みに本を読めるようになった。
腕力自慢にはもうひとつ思い出がある。大学に入学した4月頃、体力測定があった。そのなかで、腕立て伏せ(プッシュアップ)は各自が限界までやることになった。だいたいの学生が10~20回程度でダウンとなったが、実ともうひとりの学生だけは50回を超えても続けられた。しかし、実は70回を超えたところでダウンとなった。
もうひとりの学生はまだ続けられたようだが、先生からストップがかかった。体力測定後、東京都港区出身の彼に「腕力はどうして鍛えたの?」と興味本位で尋ねたところ、「小さい頃から、母に厳しいピアノレッスンを受けたことかな。ところで君は?」という返事が返ってきた。実は答えられなかった。
【前回の記事を読む】小学校時代と管理職になってからやりたくもないことを強制されると体全体がそれまでに「経験したことのない気だるさ」で覆われ、体が重くなり動作も緩慢に