はじめに
親愛なるM君、Hちゃん、S君、孫として生まれてくれてありがとう。
君たちの工作に熱中している様子、既に鉄棒で逆上がりができている様子、ハイハイでなく横向きに回転しながら床を移動している様子など、君たちのお母さんから送られてくる写真や動画にはいつも癒されている。
しかし、20年後はともかく、30年後となると、まだ君たちのおじいちゃんとしてこの世に存在しているかどうか、はなはだ自信がない。たとえ生きていたとしてもきちんと話せないかもしれない。
そこで、おじいちゃんがこれまでどんな人生を歩んできたか、ここで、じっくりと話しておきたいと思う。君たちが高校生や大学生になれば、おじいちゃんの言いたかったことが十分に理解できるはずだ。
君たちがこれから生きていく時代は、おじいちゃんが生きてきた時代(昭和/平成/令和)より大変な時代になるかもしれない。
国際紛争、国際競争、少子高齢化、社会保障費やエネルギー問題など、国内外で大きな社会課題が山積みだ。世界の政治家が頑張っているが、残念ながら、短期間で答えを出せないものばかりだ。
加えて、冷戦終結後、地球をひとつの共同体と捉え、世界の一体化を図ろうというグローバリズムの考え方が出てきたが、いろいろな社会的問題が噴出するなかで、自国優先のナショナリズムがまた台頭してきている。人類が皆仲良く生活するということは、生物学的に難しいのだろうか。
こんななかで、君たちはどう生きていけばよいか、これからの人生のなかで、何度も何度も迷うことがあるかもしれない。しかし、正しい答など簡単には出てこない、いやそんなものは存在しないかもしれない。
最終的には、皆が一所懸命自分の頭でよく考えて、最善と考えられる方向性をその都度判断して選び、人生を歩んでいかなければならない。これは、おじいちゃんの時代とあまり変わらないはずだ。
その結果、成功することもあれば失敗することもたくさんある。残念ながら、長く生きていると後悔することのほうが多いかもしれない。おじいちゃんもそうだったし、今でもそうだ。
しかし、そうであったとしても、自分の頭で考え、自ら決断して行動していく経験をたくさん積み重ねることで、まわりから「不器用な生き方」に見えても、自分の決断に誇りを持てる場面が必ずいくつか出てくる。それらは君たちの人生の大きな宝物になるはずだ。そして、その宝物を君たちの次の世代にも伝えていってほしい。
自ら決断をして行動する際に他人から聞こえてくる話は、「そんな大学に受かるわけないよ……」「優秀な研究者ばかりいる会社に入っても大変だよ……」「そんな仕事はいずれなくなるんじゃないか……」 「そんな弱小課にいるよりほかの花形の部署に異動願いを出してみたら……」 「上司の言うことを黙って聞いておいたほうが得だと思うよ……」「そんな開発は不可能だよ、やるだけ無駄だよ……」などという否定的な言葉ばかりだ。
言っている当人にそれほど悪気はなく親切心から出てきた言葉かもしれないが、しょせん他人事に過ぎない。