すると、突然のことにびっくりしたキヨは「へぇ? そうなんか? アッあかん。今頭が真っ白やわ」と笑ってはぐらかしてしまった。きっとキヨにはそれが精一杯だったのだ。

「お月さんお願いやぁ、どうか応援してくれ。あかん、今日は眠れそうにない」とハルは月に向かって叫んだ。

「そや、明日も市場やから5時起きや。はよ帰って寝やなあかん」と急に現実に戻り全力で山道を上っていった。

ハルが帰った後しばらくしてやっと、麻雀を終わらせたスエヨシが原動付バイクを走らせて家に戻ってきた。もちろんバイクの後ろに括り付けた保冷ボックスの中の氷はとうの昔に解けて生温かい水になって、魚はその中でブヨブヨにふやけ水浸しになっていた。

スエヨシは急いで保冷ボックスを鮮魚店の店先に置くと、キヨがまだ厨房で後片付けをしているのを確認して、ソオっと忍び足で奥の住まいに入っていった。

風呂の用意を持って家を出る時もまた、キヨに見つからないようにソオっと泥棒のように外に出た。そして何食わぬ顔で町の銭湯、常磐湯の方へ歩いていく。そのスエヨシの後を猫のミーは静かについていく。

「店はハルに任せといたらいいのや。俺がおらんでも何とでもなるやないか」とスエヨシは独り言を言って、調子よく鼻歌を歌いながら歩いていく。

常磐湯に着くとミーは銭湯の入口の前でじっと小さくなってスエヨシが出てくるのを待つのだ。そこにしばらくしてキヨと娘トモとカコが銭湯にやってきて、スエヨシを待っているミーを見つけた。

「ミーよぉ、あんたはえらいなぁ。お父さんはお風呂に入っているんやなぁ……。お母さんに怒られないように上手に逃げたんやなぁ、フフフッ」とトモが感心して言った。そしてミーを優しく撫でてやると、猫は目を細めてゴロゴロ喉を鳴らして喜んだ。

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