二人は、こぼれる涙を我慢しきれずにいる。邦夫に聞いてもらえたことで、知之は少し気持ちが晴れたように感じてありがたかった。
グラスを傾けること約二時間、二人はがっちり握手をしてそれぞれ帰路についた。帰宅した知之は、一人になると不安が募り急に腹立たしくなった。
「なんでこの俺が、なんか悪いことでもしたか? 俺はこの先どうなる? いやだ~~悔しい!」
知之はソファを何度も叩きながら言葉を絞り出している。苦しい時間ばかりが過ぎていく。そんな頭に浮かぶのは史。
〈史にどのように報せればよいのか、こんなありさまでは会うことすらできない〉心配をかけたくないばかりではない。この先付き合ってもよいのか。知之は、答えを出せないまま眠れない夜を過ごした。
史は偶然カフェで会った聡一郎に食事を誘われたが、知之の受診結果が気になり断っていた。帰宅して知之からの連絡を待ったが、その夜、電話もメールもなかった。
翌日の日曜日、史は勇気を出して知之にメールをした。いつもだと余り時間を置かないで返信してくれるのに、〈どうして!〉史はますます不安になった。
電話をした方がいいかもしれないと思っているうちに、昼前になった。何か食べなければと冷蔵庫に近づいた時、電話の着信音がした。慌てて電話に出る史。
「史ごめん、夕べ邦夫と飲み過ぎてね。連絡が遅くなった」
「知、あんまりだわ」
「ごめんごめん。今度の日曜日会えるか、そう一週間後だ」
二人は、行きつけのレストランで会うことにした。先に着いたのは知之。〈プロポーズしたかったけどなーー〉知之は、自分の身に起きた不幸なできごとに、打ちひしがれていた。〈そんな素振りはみせられないな〉知之は、背筋をのばした。
【前回の記事を読む】「私に第二ボタンをもらってほしかったんだ…」中学校の同窓会で再会して知った事実に二人の距離は急速に縮まっていき…