第二ボタンいただけますか
「知、待たせたね、ごめん」史の息が上がっている。
「急いで来たんだね。さあ美味しいものを食べるぞ、飲むぞーー」
知之は努めて明るく言った。食事をしながら、笑顔を見せるものの、知之は時々遠い目をした。
「なんか心配なことでもある?」史が訊ねる。
「実は会社がね、海外に進出することになってね、超忙しくなりそうなんだよ」
「そうなんだ。それより身体のほうはどうだったの?」
「身体は大丈夫だよ。余り会えなくなるかも。それがね」
「連絡はこまめにしてよ」
「承知しました」
知之は努めて明るく少しおどけて答えた。
史を送り届けて帰宅した知之は、この先どうすればよいのか、史にこのまま嘘をつき続けてよいのか、真剣に考え始めていた。
史は担当する病棟でチームカンファレンスに同席している。聡一郎も一緒だ。患者を中心に、さまざまな職種が一堂に会して患者のよりよい方向性を話し合う場に参加する意義を感じる史は、やる気にあふれて魅力的だ。
カンファレンスが終了した時、聡一郎が話しかけてきた。
「僕は患者さんのQOLを最優先する治療をしたいと思ってるんだ。そのためには、患者さんへの説明が大変重要だと思っている」
興味深く聞いていた史は「先生の医師としてのお考え、私も同感です」と答えた。