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「お~~よく来てくれたな!」
「知は咲とは十年以上会ってなかったよな」
「全くだ! 嬉しいよ」
咲は知之と邦夫の会話を聞きながら、穏やかに微笑んでいる。そんな咲を見て知之は〈素敵に成長したんだな〉とわけもなくうきうきしてきた。
「コーヒー入れるよ」と立ち上がった知之に「なあ、今15時だよな。早いディナーはどうだ?」「美味しそうなもの買ってきちゃた!」二人の嬉しい提案。
知之は「ワインどうだ? 赤・白揃ってるぞ」「ブラボー!」
ソテーされた淡路島の豚肉、珍しい野菜類のサラダに生ハムとサーモン、ペンネ、チーズのあれこれが並べられた。白ワインを抜栓して、「乾杯!」
〈久しぶりに心に平安がもたらされるようだなあ〉知之はソファにゆったりと身をゆだねながら、邦夫と咲との会話を楽しんでいる。
「咲、付き合っている人いるのか」
「邦君突然なによ」
「知も聞きたいだろう?」
「あたりまえだ、聞きたいよ」
「失恋しちゃった、もう一年になるけどね」
「咲を振るとはなんちゅう奴や」
「そう言う邦君は?」
「好きな女性はいるけど、まだ告ってない。タイミングがね」
「邦、そうか、でかした、頑張れよ」
「知之君は?」
「俺はう~~ん俺はこれからかな……」
知之は、邦夫が史のことに触れないでいることをありがたく思いながら、絶望とささやかな希望のはざまで揺れていた。