聡一郎は、患者さんの訴えをよく聞き、今後どのように治療を進めていくのがよいのか、一緒に考えることのできる医師なのである。史にとって聡一郎は「信頼できる人、尊敬できる人」として眩しい存在になっていった。

土曜日の午後、史はカフェにいた。知之とよく待ち合わせをする場所である。

〈そういえば、進藤先生がこの近くに住んでおられるんだ〉

そう思うと、史はなぜか嬉しい気持ちになり、窓の外に目をやった。「奇跡かも」史は思わず呟いた。こちらに向かってくるのは、聡一郎。カフェのドアが開いた。聡一郎は、すぐに史を見つけて同じテーブルの席に座った。

「驚いたよ。でもちょっと期待してたかな!」

白衣でない聡一郎の姿も格好いい。史は自分ももしかしたら期待していたかもと感じていた。聡一郎はいつものようにコーヒーをオーダーして、くつろいでいる。

「ところで、仕事はどう? 病棟での服薬指導大変でしょ?」

「やりがいがあります。私患者さんにどう説明すれば最も伝わるのか、いつも考えています」

聡一郎は深く頷いて言った。

「患者さん本位の医療を一緒に実現したいよね」

聡一郎は、史といる心地よさを感じていた。

「池田さんは何をしている時が幸せ?」

「美味しいものを食べてる時かな」

「僕もだな!」

二人はお互いが好きな食べ物やアルコールの話で盛り上がり、次に音楽の話題になった。

「池田さん、どんなジャンルの曲をよく聞くの?」

「ジャズはちょっと苦手かな。他は何でも好きです。最近、Rシュトラウスの交響詩『英雄の生涯』をコンサートで聞いて感動したんですよ。ユーチューブでは再生回数の多い曲を選んでよく聞くかな。注目度の高い歌手やグループにも関心がありますけど」

「そうなんだね、幅広くていいね。僕は主にクラシックかなあ。ジャズも好きだけどね。なにを隠そう、ピアノを弾くんだよ」