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待ち合わせをしているのは知之だ。

時間はさらに過ぎていく。知之はまだ来ない。「ふ~っ」とため息をつく史。何かあったのかもしれない、連絡をしてみた方がいいかもしれないなと思っているところに、スマートフォンの振動音がした。

知之からのメールである。「今日は会えそうにない、病院を受診してるんだけど思いのほか時間がかかってる、ごめん」という内容に史は明らかに狼狽した。

「病院を受診? それって何? 大丈夫なの」史のメールに「今度会った時に話すよ。本当に今日はごめん」と再び返事があった。

カフェを出ようとしたところに、一人の男性が入ってきた。見覚えのあるその男性は、史を見て笑顔で会釈した。

「池田さん、その節にはお世話になりました。いい勉強をさせてもらいました」

史はその言葉で、誰なのかを鮮やかに思い出すことができた。その男性は、大学病院で勤務する30歳の青年医師、進藤聡一郎であった。史は病棟で直接患者に服薬指導を行う他に、医師から相談を受けることがあり、内科医である聡一郎もその一人である。

「池田さん、よろしければ少しお付き合いいただけますか?」

史は笑顔で頷いた。

「先生、どうされましたの?」

「僕の住まいはこの近くでね、美味しいコーヒーが飲みたくなったらここへ来るんだよ」