Column2 女王蜂とローヤルゼリー

ミツバチの巣には1匹の女王蜂が君臨し、数十匹の雄蜂、数万匹のメスの働き蜂が住んでいる。オス蜂は未受精卵から生まれ、メスの働き蜂と女王蜂は受精卵から生まれる。

働き蜂と女王蜂は全く同じ遺伝子型の卵から生まれるが、異なる食べ物をとることによって、異なる表現型となる。働き蜂の寿命は約1ヶ月、若いうちは育児係、老いると採餌係として働く。

女王蜂は、寿命が働き蜂の20倍で、体の大きさは働き蜂の1.5倍。1日に約2,000個産卵する。このような違いをもたらすものは、食餌の違いである。働き蜂の食餌はハチミツや花粉であるが、女王蜂の食餌は、「ローヤルゼリー」である。

これは蜂の側頭部にある下咽頭の腺組織から分泌されるもので、花粉や蜂蜜由来ではない。ローヤルゼリーの60%は水分である。

ローヤルゼリーに含まれる「ロイヤラクチン」という糖蛋白が、女王蜂を作り上げる物質であることが、日本の鎌倉昌樹氏によって、世界で初めて明らかにされた。

ロイヤラクチン摂取がエピジェネティックな遺伝子修飾を起こし、DNAの変化を伴わずに女王蜂に分化することを証明したものであり、画期的な発見といえる。

なお、摂取されたロイヤラクチンはミツバチの脂肪体(哺乳類の肝臓に相当)に移行し、その細胞膜上にある「上皮成長因子受容体(EGFR:Epidermal growthfactor receptor)に作用することで、女王蜂への分化を誘導していることが解明された。

Masaki Kamakura. Royalactin induces queen differentiation inhoney bees. Nature 2011;473:478-483.

 

第2章 DOHaDドーハッド学説

前章で、バーカー仮説(成人病胎児期起源説)について述べ、胎児期に生活習慣病の危険因子を持って生まれた児、すなわち「Thebest start in life」を得られなかった児は、成人後に心臓病、糖尿病などの生活習慣病を発症する可能性が高いということを示しました。

バーカーの報告以来、多くの研究者が、バーカー仮説について議論を深めました。その結果、生活習慣病の危険因子は胎児期だけでなく、出生後の環境にも存在することがわかってきました。

すなわち、胎児期から新生児期、乳児期、幼児期と、子どもが成長発達する過程において、食生活環境が悪化すれば、将来の生活習慣病の発症につながることがわかってきました。

本章では、DOHaD学説研究の流れ、さらに国際DOHaD学会、日本DOHaD学会の現状について解説します。

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