第1章 バーカー仮説

5│バーカーの反撃

1│ヘルシンキグループ

さらにバーカーは、エリクソンらと共同で、ヘルシンキ大学で 1924~1944年に出生した男女13,517人についてのフォローアップの結果を報告しています。それによると、出生時及び幼児期に小さく、3歳から11歳にかけて急激に体重が増えた児は、虚血性心疾患、2型糖尿病、高血圧を発症するリスクの高いことがわかりました。(注1

2│インドグループ

インドでの研究は、先進国で見られた現象が、開発途上国でも同様にリスクファクターとして認められました。

南インドのミッション系の病院で、1934~1954 年に生まれ、病院の近くに居住する517人について調査しました。冠動脈疾患のリスク因子は、低出生体重、低身長、小頭囲でした。

冠動脈疾患の頻度は、出生体重が2,500グラム以下は11%、3,140グラム以上は3%でありました。さらに、2,500グラム以下の児で、母親の体重が45キログラム以下の場合は20%に上昇しました。(注2

3│オランダの飢餓研究グループ

のちに詳しく述べますが、第2次大戦中、ナチスドイツの侵攻で始まった「オランダの飢餓」は、類まれな「ヒトに対する飢餓実験」と考えられています。多くの論文を発表している ローズブーム(Tessa Roseboom)との共同研究で、バーカー仮説の正しさが証明されました(注3(注4 

その詳細は、第4章で解説します。

4│各国の栄養科学者、生理学者との連携

娘のメアリーによれば、1990 年代から、各国の栄養科学者、動物生理学者、胎盤研究者らとの連携により、バーカーは多くの影響を受けました。DOHaD研究の歴史に残る研究者として、次のような名前を挙げています。(注5

アラン・ルーカス(Alan Lucas  ロンドン小児科医)、ニック・ヘールズ(Nick Halesケンブリッジ大学生化学者)、アラン・ジャクソン(Alan Jacksonサウザンプトン大学同僚)、ジェフリー・ドウズ(Geoffrey Dawes オックスフォード大学 胎児生理学者)、ピーター・グラックマン(Peter Gluckmanオークランド大学)、ジェーン・ハーデイング(Jane Harding オークランド大学)、 ジョン・チャリス(John Challisトロント)、ジョー・フート(Joe Hoet ルーヴェン、ベルギー)らです。

1990年から10年間、これらの研究者との交流から、国際DOHaD学会が誕生することになります。この経緯は第2章で述べます。