第1章 バーカー仮説

6│研究の集大成 ~アメリカ、オレゴン州へ渡る

Column1 バーカーのエウレカ(Eureka)

ある土曜日のことだった。研究室で、地域ごとの疾病頻度を地図上に示すマッピング調査をしていたバーカーは、急いで帰宅し、キッチンに入るや否や、昼食の準備をしていた妻のジャンに、「見せたいものがあるからすぐ車の中に来るように」と、興奮した口調で言った。

車の中で、バーカーは、20世紀初頭のイングランドの乳児死亡率を記した、古びた赤い表紙の本を示した。

そこに示された乳児死亡率の高い地域(北部の工業地帯と貧困な農業地帯)は、60~70年後の心疾患の高い地域と一致するという「大発見」だった。のちに妻は、これがデイビッドの「Eureka、エウレカ」だったのだと記している。

「エウレカ」とはギリシャ語で「見つけた、わかった」を意味する言葉である。紀元前2世紀ごろ、古代ギリシャ、シラクサの王ヒエロン2世は、金細工職人に王冠の材料として純金を渡したが、職人が金の量を減らして、同じ重さの銀を加えたのではないかと疑っていた。

そこで、親族の高名な数学者アルキメデスに、不正を知る方法を見つけるよう依頼した。物質の重量と体積を測れば、密度が計算できる。

金の密度は銀の約2倍であり、銀が混ざっていれば密度が低くなる。王冠の体積を正確に計算するには、王冠を溶かして計算しやすい形に成形する必要がある。アルキメデスは、元の形のまま、体積を求める方法を考えている時に、風呂場で解決策を発見したとされる。

アルキメデスが浴槽に入った時、上昇した水位の分量を知れば、物体の体積を測ることが可能だと思いついて、「エウレカ、エウレカ(わかったぞ)」と叫んで、裸のまま、シラクサの街へ飛び出していったというエピソードが知られている。

なお、日本語表記では、ユーリカ、ユリイカなどが用いられることもある。

David J. P. Barker