「ここでは、何ですから。あちらの受付ロビーのソファーで」

とにかく冷汗垂らす思いで手に汗をかきながら、田所を人のいない受付ロビーのソファーに呼び込んだ。田所は不審がりながらも俺の前に座った。

即座に両手を組み人差し指を向ける。田所の背後には、上座に座った殿様が見えた。さすがに俺にはまだ敵意を持ってないようだ。

「田所課長、話というのは、実に言いにくいことなんですけど、率直に申し上げます」

そこまで言って、間をわざとおいた。次の言葉が出てこなかったせいでもあるが、気が異常に高ぶってしまって声が出なくなっていた。姿勢は自然とうつむき加減になっていた。田所は言葉が急に途切れたので、身を乗り出してきた。

「おい、松岡。言いにくいこととは何だ? 早く続きを話せ」

「は、はい。課長の山沖いびりが、すみません、表現が見つからなくて。何て言っていいか、山沖に対する課長の言動が悪い方の評価で流れているようでして。部下のミスをかばうこともできない課長だとか、何とか。本社だけでなく、工場の方にも流れているみたいで……。

私の同期から情報をもらいまして、このままだと田所課長の名前に傷がつくのではないかと心配になってきたんです。日頃から田所課長のことは尊敬しておりましたので、思い切って進言させていただこうと朝からずーっとお待ち申しておりました。生意気なことを申し上げて申し訳ありません」

恐る恐る田所の顔を見上げた。

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