【前回の記事を読む】「松岡さん、何してるの?忍者の真似事?」偶然ターゲットの専務が姿を現す。「こいつは手強いな......」…
第三章 専務の背任と常務の登場
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「竹村、勘弁してくれよ。一緒にいるところを見られたら誤解されるぞ。俺は仕事もあるし、甲野のことも考えないといけないんだから」
竹村はスーツの端を持っていた手を放すと、すねた顔になって俺の方を見た。
「誤解されてもいいんです。松岡さんのお手伝いがしたいんです。それより、さっきの何? 松岡さん、教えてよ」
竹村のしつこさには参ってしまう。
というか、「誤解されてもいい」とはどういうことだ?
竹村の顔をまじまじと見つめた。竹村の顔はパッと赤くなった。
「松岡さんの意地悪――。後で必ず教えてよ」
竹村は更衣室の方へ走っていった。透視しようかと思ったが、止めておいた。竹村には外にもっとお似合いの男性がいるだろうと、走っていく後ろ姿を見て思った。
デスクに座り得意先回りの整理と提出書類の準備を終わらせた頃、安本から電話がかかってきた。今から時間が取れるかという内容だった。OKの返事をすると、六階の秘書室に来いと言っている。セールスと打ち合わせをするふりをしてフロアーを抜け出した。
(秘書室に来いとはどういうことだ? 真上は役員室だ。専務も常務もいる)
安本の意図が分からないまま六階へ上がっていった。秘書室のドアをノックすると、安本が出てきた。
「おう、待っていたぞ。こっちに来てくれ」
安本に連れられて秘書室の右奥にある会議室に向かった。中に入ると、中央に近藤常務が座っている。右側には平取二人と監査役が、左側には経理部長と課長が座っている。
安本は経理課長の隣に座った。俺は何も考えずに入り口に近いところに座った。気がつくと常務と向き合う形になっている。全体の配置を考えてみると、俺の座った場所は査問会で取り調べを受ける位置だ。
(何なんだこれは?)
とにかく安本の動き、常務の出方を待つしかないと思った。
「えー、近藤常務。彼がご報告致しました同期の松岡です。現在セールスエンジニア部に所属して、タルタル電気も担当しております」
安本は頃合いを見計らって立ち上がり、俺のことを常務に紹介した。常務を囲むメンバーも一様に俺の方をながめている。安本は話し終わると、常務の顔色を見ながら腰を下ろした。