「ああ、頑張るさ。田所の出鼻を捕まえるから、俺は一階のフロアーで待機してるから」

立ち上がると、竹村の目を見つめてからフロアーを出た。竹村の顔が一瞬赤らんでいたような気がしたのは、錯覚だったかもしれないが、勇気をもらったような思いがした。

田所課長は何人かの社員の中に混じって入ってきた。エレベーターに乗る前に身柄を確保しなければいけない。緊張しながらフロアー中央まで進み出ていく。田所課長と中心部で相対するように歩調を調節しながら歩く。

「田所課長、おはようございます。実は、先ほどからお待ちしていたんです。是非、お聞きしていただきたい用件がありまして。まだ誰にも話していないことなんで、田所課長だけに先にと思いまして。何分、内密のことでして。よろしかったら、五分ほど始業前にお時間をいただけたらと」

出任せの言葉が並んでいく。

「おう、セールスエンジニア部の松岡君か。おはよう。内密の話って何だ?」

いぶかしげな顔で俺の顔を見ている。間髪入れずにでたらめをかました。

「はい、うわさに聞いています、山沖の件です」

「ほう、まあ、あれは致命的だからな。フロアーだけでなく全社にも広がるだろうよ」

「はい、そのことで、是非、課長のお耳に入れておきたいことがございまして」

「何かあるのか?」