紅の脈絡

書き物机の上で、カンテラの炎がかすかに揺れて竜興の顔を照らした。(辛くとも刑期を終えれば生きていてよかったと思える日が来るかもしれない。そう説得するのが、人間としての正しい道なのだ。……だが、人数もちょうど五人

この人たちが、ドナーになってくれれば、今、瀕死の状態にある、我がレイギッガア星のエンジニアチームを回復させることができる。そうなれば僕たちはレイギッガアに帰還できるのだ)

竜興は五人の囚人たち、一人ひとりの目を見た。

「本当に、その命、捨てられるのか?」

脱獄未遂者たちは、竜興の哀しげな双眸(そうぼう)に、虚をつかれた。

「どうしなすった、竜興さま? 何か、でかい荷物を抱えて途方に暮れていなさるようだ」

文平が、不思議そうに聞いた。

「僕は今、警部でも医師でもない。ただ、自分の感情に囚われている、弱い人間なのだ」

「竜興さま……。何か、他にあるんでやすね?」

文平が、長年闇の世界に生きてきた者の勘で先回りするように言った。

「竜興さま。何かあっしらにできる、どでかいことがあるんでやすね? それは多分、旦那とたくさんの人たちのお役に立てるそんなことですかい?」

図星だった。(僕は文平さんたちの好意を利用しようとしているのだ)いつの間にか月は黒い雲に覆われ、地上は闇に包まれた。(確かに、それしか方法がない……)

僕の命はすでに汚れている。汚れるのは、僕一人でいいのだ。北海道における中央道路は、その名のとおり北の大地の生命線だった。明治政府はその完成を急いでいた。理由はさまざまあるが、一つには海を挟んだ近隣の国の動きがあった。

中には、自国の発展のために領土拡張を目論み、北海道を狙っている国もあった。他国に先を越される前に、北海道を最先端の防衛基地にすべく、明治政府は多方面から北海道開発に力を入れていた。

その重要な中央道路開削工事の開始当初は、土との戦いではなかった。一帯のほとんどに存在する通称・原始林との格闘だった。人間ごときの侵攻に、簡単に屈する大自然ではなかった。

この戦争のような開削に当たった人夫の多くは利士馬(りしば)監獄の囚人たちだった。彼らが木の盛り上がった根に足を取られて転がるさまや、自分が切り倒した細い木に肩を打たれて悲鳴を上げる姿を、看守や巡査たちは面白がって見物した。

そんな中で発生した文平をはじめとする囚人たちの変死事件は、看守や巡査たちを困惑させた。それは、文平と竜興が言葉を交わした夜が明けてからのことだった。

文平をはじめとする五人の囚人たちが、全員死体となって発見されたのだった。