その神がかった姿は、まさしく霊峰と呼ぶにふさわしかった。そんな山に、教授が何度か連れていってくれた。

あれは秋、大学近くの文台山だったか、御正体山だったか。教授に連れられて登る途中に、見事な欅(けやき)の林があった。葉をすっかり落とし、幹はしっかりと太く、美しく並んだ欅。静かで、寒く、自分たちが足元で動かす落ち葉の音しかしない。

先に進む教授と部活の仲間を気にしながらも、私はその静謐(せいひつ)な空間に魅了され、そこを離れがたかった。しばらく留まっていたいと強く思ったのを覚えている。今でもいつかは再訪したいと願う場所だ。

動物学の課外授業に参加して、近くの神社に棲むムササビを見たこともある。真っ暗な中、黒い物体が、すいーっと巨樹と巨樹の間を跳んでいく様は、とても愉快だった。

そうして美しい自然を時折満喫しながら、月日は過ぎていき、あっという間に卒業の日が近づいてきた。

卒業したらどうするか。一応初等教育学科なので教員採用試験は受けたが、もともと教員への情熱は薄く頭脳的にも足りないので、あっさり落ちていた。

ゼミの教授が、あと一年大学に残って学芸員の資格を取れば、地元のネイチャーセンターの仕事を斡旋できるようなことを言ってくれたが、断った。

同級生もみんなそれぞれ地元に帰ると言うし、友達がみんないなくなる中で一人この町に残るのは寂しすぎたからだ。