結婚、そして屋久島へ

夫と寝室に行ってみると、まさに父は息を引き取るところだった。

みぞおちが痛い、と小さく言ったあと、父は呼吸をしなくなった。

「お母さん! 救急車! 里子、人工呼吸しよう!」

夫は必死の形相で父に覆いかぶさり、私は夫に言われるがまま両手を父の胸に当て、押した。

でも、力が入らない。

混乱の中、私の頭には、このあと病院に運ばれて、管だらけになる父の姿が浮かんだ。お父さん、今もう逝ったよ……。すうって……。起こすの? 起こしたらどうなるの?つながれて、寝たきりになるだけでは……?

「どいて! そんなんじゃだめだ!」

夫は私を押しのけて、一人で必死に人工呼吸をした。

しかし、父は戻らなかった。

私は、立ち尽くすだけだった。

葬儀には大勢の人が来てくれた。家が商売をしていた、ということもあるし、もう少しで孫が生まれるところだったのに、ということも多くの人が足を運んでくれた理由かもしれない。私の職場の人、夫の職場の人まで、たくさんの人が弔問に来てくれた。

そしてそのひと月後、私は長男を出産した。少し小さめの、元気な男の子だ。

三十八時間の難産だった。

陣痛で叫ぶ私の横で、夫は涙を流していた。

痛みの中で、私は「この人、いい人だなあ」と改めて感じていた。

一週間後、母子共に無事退院。

生まれたての長男を抱いて父の墓前に座り、母と共に泣いた。

見れなかったじゃん、お父さん、私の子ども……。

涙が止まらなかった。