ちょっと変わった少女時代

自然が好きだった。木や花、星や川、山を見るのが好きだった。

中学の頃、帰り道のなんでもない背の高いイヌマキの並木を尾瀬に見立て、私の尾瀬、なんて呟き、頭で足元に湿原があることを想像しながら歩くような中学生だった。憧れだけで、行くことすら考えられない年である。

私が育ったのは、鹿児島の南の田舎町。イヌマキのやたらと多い、平凡な田舎町だ。

テレビで見る新緑の美しい林や、燃えるような紅葉の並木は見られない。なぜ見られないのか。

住んでいるところによる植生の違いだと分かったのは、中学の頃だった。

そんな中、中学の図書室で一冊の本に出会った。

工藤父母道(ふぼみち)さんの『ほろびゆくブナの森』である。それは、岩波ブックレットの小さな薄い本だった。

表紙には、見たことのない黒いコケを纏った白い木がたくさん並んでいる。地面は雪に覆われていた。でも根元だけは、何故か雪が解けて黒い土が丸く見えている。

見たことのないモノクロのその表紙の写真に、何故か私はとても惹かれた。

借りて読んでみると、ブナというのは、人々や動物に多くの恵みをもたらす貴重な木であることが分かった。そしてそれが、大規模な伐採の憂き目にあっていることも分かった。

こんなところに行ってみたい。でも東北か、遠いな。とにかく、照葉樹林帯ではなくて落葉樹の広がるところがいい。そんなところに行きたい。

なんの力もお金もない学生の私はただ憧れだけを抱いて、身近な自然を楽しみながら、中学、高校時代を友人たちと過ごした。

友人たちは、私の趣味を面白がっていた。それはそうだ。今考えると、休み時間にマタギの本を読んで「工藤光治さんてマタギはすごいよ」と言うのである。普通の女子高生ではない。