「死因は明々白々だったから問題ない」と若い巡査部長は言い切り、それ以上の詳しいことは上司の警部補に聞いてくれと言うだけだった。

掛川は事件の担当だと言う小林刑事が京都から戻って来る時間を聞き、改めて来ると言い置いてその場を後にした。

彼は火事の現場を見に行った。邸跡は火事の後、がれきを片付けただけで手を入れておらず、黒焦げになった壁の一部が残っており、その周りに焼け焦げた土が広がり、その上にぺんぺん草が生い茂って、以前の家の姿を覚えている者にとって無残な、胸を掻きむしられる痛ましい光景だった。

当時としては進んだ水洗便所の浄化槽跡、焼け焦げた跡のある木切れがあちこちに散乱している。彼は彼らの学生時代最後の夏のことを思い出し、あの瀟洒だった洋館や、マホガニーのつやつやした風格のある階段の手すり、友人たちと海の幸に舌鼓を打った部屋などを懐かしく思い出した。

折角戦争で焼け残ったというのに、もう二度とあんな建物は建たないであろう。彼は貴重な青春の記憶の一片をむしり取られ、何ともやり切れない思いに囚われるのを禁じ得なかった。

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