Ⅰ レッドの章

聞き取り(一)

警察で最初に彼が会った巡査部長は田辺弘文(ひろふみ)と名乗った。神林の事件の担当刑事はあいにく今日は京都に出張中だと言う。しかし田辺は火災の現場検証に立ち会ったので、事件のことはよく覚えていると言った。

掛川は田辺巡査部長に焼ける前の神林の邸を知っていたと言い、「戦災で多くの建物が焼失した現在、見かけることの少なくなったしゃれた建物だったのに、本当に惜しいことをした」と言った。

事件の翌日の一九五一年十一月六日の朝、神林邸は無残に焼け落ちて以前の形は跡形もなかった。焼け跡から発見されたのは一体の焼死体で、衣服も体も判別不能なほど炭化していた。

空の焦げたガソリン缶が発見されたのは家の勝手口があった場所で、奥の別棟の日本家屋との渡り廊下辺りに位置しており、その付近は焼け方が激しかった。焼死体は一階の玄関近く、火元とみられる場所にあったので特に燃焼度が高かったという。

状況から原因は放火との判断が下された。一応火災の目撃者や一家の内情に詳しい人々の証言を検証したが、担当刑事は初めから恋人を父に奪われた息子が恨んで父を殺し、家に放火したと断定。警察の捜査の上では事件はすでに解決済みだという。

「彼らが親子で取り合ったという女はどんな女なんですか?」

巡査部長は首を振って言った。