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如月、中の十日の頃、内に渡りて梅壺なる清き梅の木のいと大きなるが見え渡れるを天(あま)にあふぎ見つつ、枝を添へて言ひやりし、

◆久方(ひさかた)の 天おほひたる 紅と碧 目の当たりさへ 眺め渡るな 

 

【現代語訳】

二月の中頃、宮中に参内して、梅壺の御殿にある美しい梅の木で、たいそう大きなその木が眺め広がるのを空に仰ぎ見、仰ぎ見して、その枝を添えて贈った歌は、

◆大空を覆っているのは、この梅の木の紅色と御空(みそら)の紺碧(こんぺき)です。そして丁度目の前にしている梅の花も含めて、全部をこのようにして私は眺め続けているのです。

【参考】

◆久方の~天に関係する、天、空、雨、月、星、日、光、都等に係る枕詞。

◆眺め渡るな~「な」は禁止ではなく、詠嘆の終助詞。

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