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如月初めつ方に、はるばると彼方を見遣れば、時ならぬ薫り辺り満つほどになむはべりしに、

◆山里に 花こそすべて 絶えぬとも 時ならず満つ 香(か)ぞこひしきは

 

【現代語訳】

二月初めの折、広々と遥か遠くを眺め渡しますと、辺りが時節を外れたように薫りに満ち満ちていましたので、

◆たとえ野山や里には花々がすっかり枯れてしまっていても、未だ春の時節ではないこの今、辺りいっぱいに広がっている、このお花の香りに心惹かれる思いとなっています。

【参考】

◆「こそ~絶えぬとも」は、係助詞「こそ」の係り結びの法則による、完了の助動詞の已然形「絶えぬれ」が接続助詞「とも」に導かれ、終止形「絶えぬ」になる。「結びの消滅」。

◆香ぞこひしきは~「は」は詠嘆の終助詞。