如月 二月


◆眺め渡るな~「な」は禁止ではなく、詠嘆の終助詞。近頃、春の花が芽吹き咲いてきましたけれど、春風は未だ吹き寄らず、寒さが温み緩んでいかない時なので、まだ趣があるとは全く言えず、つまらなく思われました。
 

◆春の花が芽吹いて咲いてきましたけれど、花が美しく映えるまでの風はまだ吹き寄らず、趣があるとは未だ全く言えず、面白くない面持ちで辺りを見渡したことです。

【参考】

◆にほふ~この場合は嗅覚の香りではなく、第一義の「美しく色づく、色美しく映える」という意味。古今異義語の一つ。

8B

如月晦(つごもり)のほど、辺(わた)りの雪消(ゆきげ)いといたう広ごりて、

◆霞立つ 春日の雪間 人や知る たたずみゐれば はる(張る、春)の初草

 

【現代語訳】

二月の終わり頃、雪解けは辺り一面に大きく広がっていて、

◆霞の立ちこめるこの春日野の里での雪解けの様を、私の意中のあのお方はご存じなのでしょうか。立ち止まってじっと見ていますと、足元には、芽が張るという春初めの若草が人成っていることですから。

【参考】

◆霞立つ~「かす」という同音繰り返しから、地名「春日」に係る枕詞。

◆春日~春の縁語である若菜、若草、初草などと読み込まれる歌枕。奈良市春日野町の藤原氏の氏神である春日神社辺り、奈良公園一帯の野や春日山等の地。

◆はる~芽が張る、木の根が張るという「張る」と「春」の掛詞。

◆霞立つ、春日、雪間、雪消、初草は全て春の縁語で、背景で響き合っている。

◆人や知る~この場合の「人」とは、特定の人を直接言わないで、「意中のあの人」の意味で使う特別な用法。本歌は、奈良上代から平安時代、ある女性の春初めの淡い心歌として創作。