如月 二月
2A
夕暮れのいたう霞渡るほど、つらつき、いとらうたげなる若草の若紫の髪をかきなでつつ、この尼君、
◆ねび行(ゆ)かむ 行く末(すゑ)知らぬ 初草を 見送る露ぞ 見つる先無き
【現代語訳】
夕暮れのひどく霞が辺りに掛かる時に、お顔付きがいかにも愛らしく、若い芽吹きの感じの若紫の君の髪を掻き撫でながら、この尼君の詠んだことは、
◆これから成長して大人になる将来のことは今分からない、この幼い孫の若紫の君だけれど、頼もしい成長を見届けるはずの自分は老い先短く、この子が人と成るのを見届ける将来はないのが、とてもつらく悲しいことです。
【参考】
・『源氏物語』の「若紫の巻」から着想した本書作者の創作。若紫は未だ幼女。
・つらつき~お顔つき。
・らうたげなり~いかにも愛らしい。
◆ねび行く~成長して大人になる。◆若草、初草~幼い孫の若紫なぞらをえたもの。
◆露~老い先短く儚はかなく、露のように直ぐ消えてしまう自分を尼君が例えたもの。
◆見送る露~成長、生い先を見届ける、この自分(尼君)。老い先と同音。
◆見つる先~成長を見届ける将来。
◆霞、若草、ねび行く、初草は、春。先無きは、露。それぞれ縁語の修辞法。作品の背景で響き合う効果がある。
◆若草の若紫~同音の響きの重ね。