リセット

この日のメニューはご飯、味噌汁、煮魚、里芋の煮つけ、青菜のくるみ和え、フルーツポンチ。味噌汁は、北海道では白味噌だったが、ここでは赤味噌を使っている。

僕はバッグから今朝、亀ヶ谷さんにもらった七味を取りだし、さっそく味噌汁にふった。薄茶色の汁に赤が散り、啜るとピリピリとした感覚が舌先に伝わった。

カーテンの中で黙々と夕食を食べていると、さっきまでいた旭川の病院のことが、なんだか急に懐かしくなった。おおらかな斉藤さん、愛郷心の強い亀ヶ谷さん、もっとここにいればいいのにと言ってくれたヘルパーのお姉さん……みんな今頃どうしているだろう。距離が離れたせいで、さっきまで話していた人たちが遠くへ行ってしまったような気がする。赤い髪の、あの看護師さんとももう会えないのか。そう思うとすこし切なくなった。

バッグを開け、中から大きな瓶を取りだした。旭川でつくったみかん酒だ。

ホワイトリカーがオレンジ色に染まりはじめている。それは希望に満ちた色だった。

港口整形外科

「はい、来見谷さん。おしぼりね」

朝食の下げ膳が終わると、ヘルパーが患者に蒸しタオルを手渡していく。オレンジ色は局部用、白はそれ以外の所を拭くためのものだ。

わき腹のあたりを丹念に拭いていると、カーテンがサッと開き、若い小さな看護師が入ってきた。

「来見谷さん、お熱を測ってください」

「はーい」

「昨日のトイレの回数は?」

「大二回、小四回」

僕は鼻で、ため息をついた。病院は、どこへ行っても病院だ。朝から晩までベッドの上で天井を眺めているだけ。旭川にいた頃となんら変わらぬ日々が過ぎていく。入院しはじめの頃は食事をすませるとすぐにうとうとしたが、しだいに体力が回復してくると、寝たきりでいることに退屈してきた。

旭川では車椅子に乗ることができたが、この病院では医師の見解が異なっており、坐骨と恥骨の粉砕骨折があるため、体を起こしていいのは食事とトイレのときだけだ。このままあと三週間は動かないようにと言われた。額の剃りこみのあたりを指で触れながら、悶々と時間をやり過ごす。視界は淡黄色のカーテンで覆われている。