リセット
次に、加害者の運転車輛の写真を見せられた。白のセダン。前方のフェンダーがぶつかった衝撃で大きくへこんでいた。
こんなにへこますなんて、僕って案外強いのかもな。ぼんやりした頭で、そんなことを思った。
「一〇〇パーセント相手が悪い。夜なのにライトもつけてなかったんだから」
警官がきつい目つきで言い放った。
「ライト、つけてなかったんですか?」
「この写真を見てごらん」
さしだされたのは、加害者の車の視点から見た現場道路の写真だった。
「視界は良好だった。見通しを妨げるものや運転に影響を及ぼすものなんて、何ひとつないんだよ。それであんた、相手に業務上過失傷害をつけることができるが、どうする?」
「いいです」
「いいのかね」
「入院費だとか払うものさえきちっと払ってもらえれば、あとはどうこう言うつもりはないです」
話は三十分で終わり、飛行機に乗った。機内に入る際、航空会社の用意した車椅子に乗せられたが、これは初めて見るタイプのもので、中の通路を通れるよう幅が狭くつくられていた。
機内の薄型液晶テレビには、報道陣でごった返した建物の入口が映しだされていた。画面の右下には〈ツノピー重症〉という文字があり、人気タレントの角田智哉がドラマの撮影現場で舞台から転落したことが報じられていた。都内の病院前からの中継だった。
羽田へ向かう間、両親からさまざまな話を聞かされた。先ほど事情聴取をしたのは、富良野警察の警官だという。轢かれた際に着ていたTシャツやズボンは、全身の処置をほどこすため救急車の中で救急隊員にハサミで切り裂かれ、今、僕のボストンバッグに入っているらしい。
腕時計は割れて、壊れてしまったという。また、救急車で運ばれたあと、何日かは救命救急病棟にいたそうだ。
――あれは、救命救急病棟の看護師だったのか。
その病棟で僕は、ずっとハイテンションで話していたらしい。さらに、骨折は肘、下腿だけでなく、腰椎(ようつい)、坐骨(ざこつ)、恥骨なども折れており、脳挫傷 (のうざしよう) もあるとのことだった。