十八時 プロローグ

病院前のバスターミナルには、コートを着た人の列ができていた。診療を終えた患者や、仕事帰りの職員だ。みな、寒そうに身を縮めている。

国道をはさんで、シャッターのおりたツインの薬局が真向かいにある。

ピーポー

ピーポー……

サイレンは徐々に近づいてきて、やがて救急車がものすごい勢いで入ってくるのが鳥瞰(ちょうかん)できた。

スーッ……

病室の扉がひらき、長髪の、すらーっとした女性が部屋に現れた。コバルトブルーの手術着の上に、くたくたの長白衣を羽織(はお)っている。

「え? どういうこと!?」

久仁子は目を見ひらいて言った。

「どういうことぉ~!?」

女性も目をぱちくりさせて言った。

ふたりの言葉は同時に発せられた。

切れの長い大きな目。つんとした鼻。(つや)っぽい唇。細身だが、形よく隆起した胸が長白衣の上からでもわかる。久仁子が三十九年つきあってきた姿。そう。久仁子自身の客観が面前にあったのだ。久仁子は一瞬、女性を自分のクローンかと思った。

「……あなた……だれ? ……どうして?」

目の前にいる女性に、久仁子がたずねた。

「あなたこそ、どうしてわたしの姿なの!?」

「わたしの姿?」

久仁子はハッとなって窓を見た。

ガラス窓に。うさぎ顔の女性が映っていた。いつも会っているベビーフェース。妹分の皮膚科医・小林香澄だった。久仁子は、ガラスに映る自分の姿に、動転した。

――どうして私が、香澄になっているの?