「来見谷さーん」
若い看護師に体を揺すられ、目を覚ました。お見舞いメールを手にしたまま眠っていたようだ。看護師は、病室に入ってきた松葉杖の男を僕に紹介した。
「こちら、今日から入院します、亀ヶ谷さんです」
四十代半ばくらいだろうか。面長な顔に青縁の眼鏡。がたいはでかいが、鹿のようなやさしい目をしている。どことなく考古学者を連想させる。男は僕に、よろしくお願いしますと頭を下げた。左脚をギプスで固めている。
「来見谷です……よろしくお願いします」
うつらうつらしながら、張りのない声で頭を下げる。続いて、男の奥さんと思しき女性が頭を下げた。夫のケガで眠るヒマがなかったのか、やつれていた。彼らは寝ている僕の前を横切り、カーテンで仕切られたとなりのベッドへと消えた。
「すみませーん」
僕は、廊下を通りがかった看護師を呼びとめて、手招きした。
「……さっきまでとなりで寝ていた人は?」
「服部さんなら、午前中、大部屋に移動になりましたよ」
「……そうですか。あの、それと氷枕がぬるくなったんで、交換をお願いできますか」
「わかりました。それじゃあ、代わりを持ってきますね」
看護師は、にこりと微笑むと部屋を出ていった。