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夢の中
白衣を着たひげの男と女の人が、交互に傷口をのぞきこんでいる。ヒビテン、ハイスパン、シルキーといった用語をくり返す。呼吸をするたびに体中が痛い。ときどき、ひげの男がジョークを飛ばしているようだったが、意識のはっきりしない僕には通じない。
「……イタイ、イタイ。僕は囚われています」
思わず涙が出た。
「はは、たしかに囚われの身だな」
そう言ってひげの男は笑っていたが、次の瞬間、怖い顔で女の人を怒鳴った。
「点滴が早すぎて痛がってるんだよ!」
「あ、ほんとうだ。ごめんね」
女の人が管についているつまみをいじった。ひげの男が、僕に顔を近づけてたずねた。
「来見谷さん、昨日、肘と足に金属を入れる手術をしたんだけど、覚えてない?」
「……手術? ……………………ああ……そうですか」
「来見谷さん、入りますよ」
カーテンがサッと開いた。女の人が入ってきた。さっきとはまた違う顔だ。
「あ、また携帯が置いてある」
「……家族に電話したいんです」
「だめですよ。携帯は使っちゃだめだって言ったでしょう」
「……じゃあ……どうすればいいの?」
「テレカ持ってるでしょう。動けるようになったら、デイルームの公衆電話を使ってください」
「……家に電話がしたいんです……。ここへ来て何日くらい経ったんですか?」
「さっき話したこと、覚えてないの?」
女の人はくり返し何かを説明していたが、何度説明されても、僕の頭には入らない。僕の頭の中はウイスキーのこんにゃくゼリーがいっぱい詰まっているようだ。女の人は僕から携帯を取りあげると、電源を切って床頭台の抽斗に入れてしまった。磐石のように動かない下半身。肘や腰や足にズキンズキン、鈍くて鋭い痛みがある。
「左足が動かないんです……足……つながりますか? 引っぱられている感じがする」
「大丈夫。ちゃんと足はくっついてますよ」
「ちょっと、ベッド柵おろしちゃダメでしょ」
女の人が僕をにらんだ。
「……ジュース買いに行こうと思って」