「ベッドからは降りられないのよ」

「……自分で買いに行きます……いろいろな味のジュースが飲んでみたいんです」

「どうやって買いに行くの?」

「……歩いて。ぜんぜん起きあがれない……すこし水が飲みたい」

女の人がスイッチを押して、ベッドを起こす。

「……左足が曲がらないんです」

「来見谷さんは骨折しているから歩けないの。わかる?」

「……歩いてジュース買いに行きます」

「来見谷さん。こ・こ・は・ど・こ・で・す・か?」

「……ここ? …………スーパーです」

女の人は吸いのみで水を飲ませ、ベッドに柵をしていった。キツネ顔のお姉さんが僕のベッドをのぞきこむ。

「ちょっと、包帯が取れてるじゃない!」

お姉さんは、オーバーテーブルの上にある包帯を手に取った。僕は低血圧なので寝起きが悪い。

「あーあ、貼はりついちゃってるよ」

お姉さんは、やれやれといった表情で、傷口のティッシュをはがそうとする。

「イタイ、イタイ」

「これ、誰がしたの?」

お姉さんがきつい目つきでたずねる。

「……わからない…………一時間に一秒くらい、キリキリするような骨の痛みがあるんです」

「それじゃあ、痛み止め飲む?」

「……ガマンします。でも、左肘の(しん)が痛くて……コンクリートで打ったみたいにイタイ」

「そんなに痛がったらおかしいよ」

「……だって……さっきよりも痛くなっているんです。……もろに痛くって、毛がまた三本抜けました」

「あはは。大丈夫よ、三本ぐらい」

「……こんなケガをするのなら……もっと人の道から外れた、悪いことをしておけばよかった」

「そういうこと言わないの!」

「……痛くって、また毛が一本抜けました……これからは悪に走る……もう中華街へ行っても、絶対に中華料理は食べない」

「だから、どうして悪いほうへ走ろうとするの。やっぱり痛み止め飲む?」

「……ぎりぎりまで……ガマンします」

天井が落ちてきた。僕は、そのまま闇の底へ沈んでいった。