人間の前頭葉は言葉と共に発達した?知られざる脳と言語の影響関係
第一章 アフリカのホモ属(ヒト属)
《二》ホモ属の進化(二六〇万年~二〇万年前)
二足走行と本格的な狩りの開始
ホモ・エレクトスの直立二足歩行は完成の域に達していました。腰の上に載った胴、その中央にある平たく幅の広い骨盤、垂直方向にかかる衝撃を吸収するS字状の背骨などがバランスを保ち、(足の指も短くなり)しっかりした足取りで歩行できるようになったのです。
その上にホモ・エレクトスには走る能力が備わりました。歩くときにはあまり使いませんが、走るときには重要な尻の筋肉(大臀筋)も、ホモ・エレクトスでは大きくなっていました。さらに、耳の内耳にある三半規管は平衡感覚や回転感覚をつかさどり、走るときに重要なものですが、ホモ・エレクトスでは大きくなっていました。
ホモ・エレクトスは私たちと同じように頭を一定の高さに保ったまま、長距離を走ることができるようになりました。この走行能力の獲得は狩猟に役立ちました(逆に狩猟をやっているうちに走行能力がついたのでしょう)。
動物性の食物を手に入れる方法は主として二つありました。一つは他の捕食動物が残した死肉をあさること、もう一つは生きた獲物を直接狙うことでした。
前者は、ホモ・ハビリスとホモ・ルドルフェンシスの段階でやっていたことです。後者はホモ・エレクトスの段階ではじめた本格的な狩りでした。
毛皮を持つ哺乳類は、気温の下がる夕方か早朝、あるいは夜中に狩りをするのが普通です。アフリカのサバンナに暮らすライオンなどは暑い日中に走り回ると熱中症で倒れてしまいます。日中の暑いさなかの捕食動物は、日陰にいるときでさえ、口を開けて「はあはあ」させて、体熱を逃がそうとしています。時速六〇キロメートル以上で疾走するガゼルを追いかけることなどとうてい無理です。
ところが、ホモ・エレクトスは裸になった皮膚で汗を蒸発させて余計な体熱を逃がし、アフリカの暑い日中でも活動できるようになりました。獲物の草食動物の走行速度は非常に速かったのですが、すべて四肢の毛皮付きの獣であり、暑さで長距離走には耐えられません。
ホモ・エレクトスだけはアフリカの炎天下での長距離走においては、他のどの哺乳動物よりも持久力があり、獲物が力尽きて倒れるところまで追って石器で仕留めることができるようになりました(もともと二足歩行は四足歩行より省エネルギーです)。
ホモ・エレクトスは、こうした狩りによって可能となった高タンパク、高脂質の食生活のおかげで大きな脳と体を持てるようになりました(しかし、人類は本格的に二足歩行をはじめたことによって、数々の肉体的な障害も発生するようになりました。心臓の位置が高くなり、体重が腰のあたり(腰椎や骨盤)に集中するようになったため、現代人にも通じる腰痛、膝関節痛、心臓病、危険を伴う出産などの代償が伴うようになりました)。