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第二章 原点への回帰
第一節 故郷
学校を退く試みに失敗してのち、私は外の世界に順応しているように装いながら、少しずつ学業を投げていった。そして密かに自分の殻に閉じ籠もり、自分の存在の闇の中に退行していった。読書だけが私を救う逃げ道となり、またそれが私の未来を拓く道ともなった。十五歳の春に手をつけたニーチェやパスカルは、わからなくとも不条理への憧憬を呼び覚まし、耽読した芥川や直哉は心の襞にまで染み透って、私の絶望の証しとなった。十六歳になると、ドストエフスキーや漱石を初め、世紀末の作家を追っていた。そうして、懐疑的、絶望的、退廃的な厭世主義に染まっていった。半年もすると、辞書を片手に英語の基督や聖書、そして、ポーやハーディやシェークスピア、それに英語版のチェーホフを読んでいた。
そんな文学の読書に浸りきった生活を一年も過ごすと、私の脳裡は狂気の恐れから淀んだ疲れに変わり、少しく落ち着きを取り戻していた。私は洞窟の奥から遠い入口の光を見るように、外の世界を眺めていた。私の部屋の窓辺からは田舎町の家並みの連なりの上に、青い山々の連なりが見えた。それは鉛色の曇天の下に拡がった虚ろな風景だった。私は倦怠にも似た疲れを感じながら、そんな風景に見入って長いことぼんやりしていた。そして、翻って底無しの闇に包まれた自分の内なる存在を感じ続けて、そこに安らぐようになっていた。