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第二章 原点への回帰

第1節 故郷

私は自分を(おとし)めて劣等(れっとう)感に(さいな)まれた分だけ、優等生で思うがままに飛び回っている天真爛漫な彼女に(あこが)れた。あたかも彼女に自我の独立と自由があるように思ったのだ。そして、彼女に相応(ふさわ)しい男であろうとして、自分の絶望の中に新しい力を見出(みいだ)そうとした。

私はそれまで自分を否定して()まなかった一切(いっさい)のものに対して、絶望的に自分自身(存在)を肯定(こうてい)しようとした。私は自分自身(絶望)であり切ることによって、新しく生まれ変わろうとしたのだ。

その(ころ)に読んでいたアルベール・カミュの与えた衝撃が、十七歳の私をそのことに()み切らせた。カミュの実存主義は絶望的に自分自身((つみ))であり切ることによって、真の自分自身を生きようとする能動的ニヒリズムの激情となって、私を行動へと()り立てていった。

私は自分が恐怖に(おのの)いて無能なのは、自分が体制の価値観に支配されているからだと思った。私はそんな価値観を無意味な習慣(しゅうかん)として捨て去り、全世界に対して、全存在に対して、絶望的に自分自身(罪)であろうとし、そういう自分自身(罪)であり切ることによって、自分の自信と能力を取り戻もどし、自分の全人格を完遂(かんすい)しようとした。