「その時間は?」
「五時ちょうどです」
「ずいぶん正確におぼえてるんだね」
「はい……公園かどこかから『夕焼け小焼け』のメロディーが聞こえてきて、自分でも腕時計を見て確かめたから、よくおぼえてるんです」
「なるほどね……。それで―きみは、ここにいた人間の顔を見たの」
少し間を置いて、祥乃がうなずく。
「見ました。でも、なにをしてたのかまでは……」
ふうん、とひとつ、桂衣子は息をついた。
「じゃあ、単刀直入にきくよ。きみが見た人間は、だれなの?」
周囲で見守っていた生徒たちがにわかにざわめき、だれかが問いを発した。
「ちょっと、おケイ、それどういうこと?」
その問いに対して、というより、祥乃に向かって桂衣子は語りかけた。
「きみは、相当の覚悟をして、目撃した事実の告白を決めたはずだよね。単に、だれかがこの教室にいたのを見たってだけなら、そこまでの決心ができた? たまたま、このクラスの生徒が残っていただけかもしれない―そう考えて、すべて終わりにしてしまったんじゃないのかな」
冷静な桂衣子の言葉に、祥乃のほうがとまどいを隠せないようだった。
「あ、あの……」
「つまり―きみは、ここにいた人間がだれかをちゃんと知っている。そしてそれは、ここにいることが不自然な人間。そういうことだよね」
まるで、観念した犯人のようにうなだれて、祥乃は「はい」と答えた。
「教えて。それはだれなの?」
「美術部の……上原佐希先輩です」