NHKのど自慢

六月も最後の日曜日、合併による糸島市発足記念行事の一つとして、NHK「のど自慢」が市内伊都文化会館で行われた。

最初、広報にこの事が掲載された時、妻は、歌は下手だから勿論出場はしたくないが、公開放送だから是非観に行きたい、とハガキで申し込んでいた。

どうせ抽選だし相当の倍率で、とても当たる見込みはないだろう、と、傍観者の私は高を括っていた。しかし、結果はバッチリで、入場案内のハガキが送られて来たのだ。

話によると、妻の陶芸仲間など、知る辺も結構申し込んだらしいが駄目だったと。

それなのに、自分だけが当たったので、手放しの喜びようであった。結構くじ運が強いようだ。

「それでは一緒に行ってやろう」と、私もやおら腰を上げた。

会場は八百名の定員で、一般抽選は二百五十名? と言う狭き門、残りは関係者、いわゆる出演者の身内とか、来賓その他で埋められたらしい。

当日は十一時十五分に会場に到着、本番開始の一時間前である。糸島市長やNHK福岡放送局長、ディレクター、事務関係者、等が挨拶やお願い事項(受信料の支払い)と言って、次々に壇上に上がって来て述べた。

なかでも、市長の、「この番組は私がNHK福岡放送局長に開催のお願いをして、やっと実現しました」との弁を聞いて、ああ、なるほどそう言うものなのか、と初めて知った。

のど自慢は、NHKが毎週の開催地を、独自に決定して出かけているのだろう、とばかり思っていた。

だから、全国各地の突発的な、あるいは新しい出来事をキャッチして行くのも、ある面では大変だなあ、と……。

それはともかくとして、本番までに何回もお決まりのリハーサルが行われた。うわさには聞いていたが、やはり裏方さんの苦労は大変のようだ。

出場者が音楽に合わせて会場へ入場する時の行進も、予行演習を行ったり、勿論この時はゲストと司会のアナウンサーだけは除外であるが。

手を叩くのに、「もっと大きく強くお願いします」など、何回もやらされた。

その都度、担当のディレクターは、手で大きく円を描いて、うながす動作。

こちらは真面目に聞き、叩いていたら手が痛くなって来た。

更に本番が始まる前に、会場での出演者の家族の席まできちんと、舞台の上から確認。

「一番のAさんのご家族の方は何処にいらっしゃいますか? お母様ですか、奥様もご一緒ですね。応援の幟(のぼり)か旗はありますか? 掲げて見せて下さい」

「はい、そこですね、あまり高く掲げないようにして下さい。他のお客様が見えなくなりますからね、出番の時だけにして下さいね。それでは宜しくお願いします!」

など、なかなか神経が行き届いて、至れりつくせりである。

実を言うと、会場に来る時は、こんなに早くから行っても、これじゃあ待ち時間は退屈だろうなと思っていた。

しかし、なかなかのもの。おまけに私どもは、昼食抜きで来たのだが、別に腹も立たなかった。

本番は何時もテレビで観ているので、そんなに変わった事もなかったが、午後一時きっかりに放送が終了した後も三十分ほど、来場者へのサービスがあった。

今週のチャンピオンとなった人が、アンコールでもう一回同じ曲を歌われた。

そしてゲスト歌手が、巧妙なトークと、自慢の歌を二曲ずつ披露し、会場の歓声を浴びた。

今回のゲスト歌手は川中美幸、と西方裕之のふたり。西方裕之は糸島の隣の唐津の出身との事。やはり開催地と関係のある人、あるいはなるべくそれに近い人、などを配慮して選ぶのだろうか。

川中美幸はウイットに富んで、会話も聞いていて楽しいものがある。

今日の、のど自慢の見物は二時間余りであったが、本当に楽しい時を過ごさせて貰った。これは来た甲斐もあった。

帰宅してみると、やはりテレビを見ていた人が沢山いたのだろう、家内の知人からメールや電話が入って来た。

「鈴木さんテレビにバッチリ映ってたよ! 観に行ってたんですね」と。

妻も他人にはこの事を話していなかった。東京に住む娘二人や家族には、もしかしたら、テレビに顔でも映るかもしれない、と知らせていたらしいが。

良い思い出の一つとなった。